何をやっているのだ。


手に握られた菓子箱を見つけながら、カスミは思った。


商品名ポッキー、税込150円。
パッケージにはチョコに絡められた極細スティックの写真。

スティックと呼ぶのかは分からないが、
とりあえず、この手の棒クッキーの中で元祖はこれ…のはず。
いやスピッツが元祖だっけ?ラピッツ?…もう名前忘れた。


まあ。
そんなことはどうでもいい。

なんでこんなのがバッグに入っているのだろう。

無性に食いたくなったわけではない。
小腹が空いたわけではない。
間食するわけでもない。

そもそも、こんなのは買ってない。
ボケてない限り、買ってない。

ただ、心当たりはある。

何週間前から、このポッキーについてツバキに茶化されたし。
ヒカリからは【買いましたか?】なんてメールが着たりした。
この二人には先週何回か会った。


「…この野郎…」

やらないわよ。
というかやらせてくれるわけないでしょ?

菓子箱とにらめっこをする彼女を、通行人は時々チラ見する。

まず実際にこんなことをしてる人がいるのだろうか。
合コンや宴会でやることがあるとは聞いたことはあるが。
ああでも電車の中で抱き合ってる高校生が居たから、こんなの朝飯前なのかなぁ。

碧眼は細くなり、パッケージに映る香ばしいチョコを流し見る。

何にせよ私たちにゃ関係ねーことさ。
残念だったな。

苦笑しながら、バックにそれを仕舞おうとする。


喧嘩や研究以外に何か、とは。
時々、思うけど。





「ゲームしたいなら付き合うぞ。」

「はうッ!?」





それはバッグのファスナーを開けようとした瞬間だった。

思わず奇声を上げてしまったことに赤面し。
恐る恐る、振り返る。


そこには、“やらせてくれるはずのない”、相手が。
バイクと一緒に突っ立っていた。


この野郎、傍にいるなら話しかけろ!

いやいやいや…!
その前にコイツは何て言ったのだ。
空耳だっただろうか、よくあるコイツの欠陥言語だろうか。

碧眼の奥で脳内物質の攪拌と反応が活発に行われる。
グルグル渦巻きが背景になるとはこのことだ。

…万が一素だったら。
どう反応すればいいのだろう―――…


「…って言ったら、面白い反応が見れるって言われたんだけど。」


一瞬でも想像した私がアホだった。

暗黒時代のページに追記。
抹消したい。

というか誰から、いやどっちから言われたのよと。

カスミは拳を握りながら、くぅう…と唸った。

例の相手は蒼眼を細くしながら、真っ赤な彼女を見つめる。

「…面白い?」

聞くな。
殴るか、ポッキーをくないのように投げたい衝動に駆られたが、
相手に悪意はないのだとカスミは自制する。

「ゲームってなんだよ。」
「あ、アンタにゃ関係ないわよッ!?」

語尾の音声が高くなってしまった。
彼女は落ち着けと自身に叫ぶ。

一方、彼は “ふぅん” とつまらなそうに視線をずらすと。
バイクをまた転がし始めた。
よく見ると、バイクの後ろにピカチュウが乗っている。
今朝バスにいなかったと思ったら、一緒に居たらしい。


道路にまた出るのか、エンジンを掛け始めた。
それに気づいたカスミは手に握ったままのあれを彼の前に差し出す。

「あげる。」

“どういう趣旨なの?” と蒼眼は流し目で橙色を見つめる。
しかしその色は睨み返すだけである。

とりあえず彼はその箱を受け取り、早速開けた。
中には棒菓子が敷き詰められた袋二つ。
そのうちの一つを取り出し、残りは元持ち主に返した。

「先に行ってる。」

ポッキーを一本咥え、バイクに跨ると。
あっという間に飛んでいってしまった。
しかし遠くからでもピカチュウの尻尾がゆらゆら揺れているのがよく見えた。

取り残された人は、残った袋を開け、
先程彼がそうしていたように一本を口に咥えた。

ポケギアが鳴ったような気がするので、取り出す。
やはりメールが着ていた。

【結果報告待ってるよ】

誰が…。
カスミは顔をむくれさせながら、【知りません】とぶっきら棒に返信する。

そして空っぽの菓子箱をバッグにさっさとしまい。
黄色に埋め尽くされた通学路を歩くのだった。





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